2012年12月18日

大鳥圭介と鳳啓助



「おおとりけいすけ」と言うと、幕末明治に関心のない一昔前の方は、「ポテチン」というギャグで有名な京唄子とコンビを組んでいた鳳啓助を挙げます。20年近く前にお亡くなりの方ですので、すでにこの漫才師鳳啓助もご存知ではない方も多いかと思います。

鳳啓助、本名小田啓三。1923年生、1994年没。大阪出身の俳優、漫才師、脚本家です。
この鳳啓助が髣髴されやすい大鳥圭介ですが、その芸名の由来が、大鳥圭介そのものであったことは、あまり知られていません。
この経緯に関連した新聞記事をご紹介します。


● 読売新聞 昭和54年4月14日夕刊

「劇団結成の動機?そりゃ好きな軽演劇をしたかったよってですよ」

唄子・啓助の漫才に親しんできたから、寄席芸人が一念発起して劇団結成した―くらいに思っていたら、これが違った。

母が浄瑠璃好き、祖父が劇団を結成して旅回りするほどの芝居好きという環境に育ち、幼時から山口県の祖父の劇団に子役で出た。十七歳で帰阪し、二十三歳で鳳啓助劇団を設立。宮城千賀子劇団に京歌子で出ていた唄子と結婚(十六年年前に離婚)―と聞くと、寧ろ役者が本業だったのだ。

「十年前は商店街の売出しがあると聞くと、飛んで行きましたね。一枚でも券を買うてもらおう思うて。このごろでは電話で百枚、二百枚と注文がきます」

啓助は舞台が受ける理由をこう分析する。かつて森川信劇団が上演していたような"まじめな軽演劇"が今はない。これを目ざし、その場だけの屈託のない笑いを盛った肩の凝らない"底辺の芝居"に仕上げたためではないか―。
そのために、まず役者を喜ばさねば、という論法だ。

「ぼくの芝居作りは、まず装置を考える。それから役者さんの割り振り。最期に物語を組み立てていく。だから唄啓劇団に出た役者さんは、みんな喜んでくれます。必ず為(し)所を作るからね。だって、みんなが楽しみを分かち合わないと、ね」

幕末に榎本武揚と函館の五稜郭にたてこもった大鳥圭介に心酔していて、芸名もここから。
「彼はやるだけのことは十分したから降参してもいい、死ぬことはないといって、維新政府でも要職につきました。あの生き方がすきなんですねェ。ぼくはいつまでもみんなと生きていたい」

唄啓劇団が根強い人気を持ち続けているもう一つのわけは、座長・啓助の暖かい人柄と、したたかな生命力が舞台ににじみ出ているから―なのかもしれない。



芝居好きというのは大鳥圭介も鳳啓助も同様でした。後者はそれを芸に高め漫才師として大成しました。鳳啓助は大鳥圭介の芸人魂に共通するものを感じたのかと思っていましたが。負けても死なずに生き残り後の世に尽くした生き方が好きということでした。


もうひとつ。


● 神戸新聞 昭和59年8月10日の「正平調」

赤穂上郡郡での出来事。役場を訪れた若い記者が尋ねた。
「この町の有名人を教えてください」
「オオトリケイスケですね」と町職員が答えた。

記者「すると京唄子さんも…」
職員「?」

彼(町職員)が誇らしげにあげたのは、榎本武揚らと函館・五稜郭で官軍に抵抗しながら、明治政府で枢密顧問官まで昇進した異色の政治家大鳥圭介のことである。「漫才の鳳啓助と間違うとは、ヤングの歴史音痴にも程がある」と一つ話になっている。

しかし、二人のオオトリが太い糸で結ばれていることはあまり知られていない。旅回り一座で育った小田啓三少年が、皿洗いや新聞配達で暮らしを支え、やっと舞台に上がれた時、真剣に芸名を考えた。そこで心に響いたのが大鳥圭介だった。名優・鳳啓助はこうして生まれた。

「大鳥圭介の生き方が好きなんです」と鳳(啓助)さんは言っていた。変節とか転向とかではない。「やることは十分したから、降参してもいい、死ぬことはない―この考えにポテチンと参ってしまった」のである。素直な気持ちに裏打ちされた生命力の強さに感動したのだった。

唄子さんとの絶妙の掛け合いや「おもろい夫婦」の芸術的ともいえる司会に、そんな哲学がにじんでいた。本紙の随想にもこんな詩を綴ってくれた。

「もつれあい、化かしあい、許し合う狐と狸。夫婦、おもしろきかな、この長き道連れに幸せあれ」

がんで逝く直前、鳳さんは「蛍の光」を歌っていたという。出会った無数のカップルに別れを告げていたのか。励まされた日本中の夫婦が、続いて「蛍の光」を輪唱する番だ。



「ヤングの歴史音痴にも程がある」との言葉に、昭和の世からの時の流れを感じます。この記事は1984年。長生きの方なら、日清公使時代「ヨッポド偉い者」と謳われた大鳥圭介そのものを、同時代の方としてご存じである方がまだおられた頃でした。

「死ぬことはない」と言ったとされていますが、大鳥本人は「幡然、衆に代わって茲(この)躬(み)を殺す」と死ぬ覚悟はしていました。ただ、「なあに死にやしない」と衆に対してはうそぶいていた。その点が仰ぎ見るところです。

大鳥が安藤太郎など多くの人に伝えた「いつも負けてばかり」ということも、関西人が美徳とする謙遜と自虐とユーモア故のことでしょう。しかし実際は勝率は五分五分以上、連勝している事も多かった。大鳥は同時代の新聞や錦絵などでは高名な将としてもてはやされていました。だからこそ、本人の口から、苦労ばかりして負けてばっかり、ということを聞かされると、感じ入って印象に深く残ってしまうものだったでしょう。それゆえに、現在になって戦下手という悪名がフィクションで強調されるようになってしまった。
このあたり、臆面もなく自分の自慢話を強調し、結果、戦の天才として名前の残った板垣退助などとは対照的な感じがします。

大鳥の謙遜と諧謔は、いつの時代にも通じるものではないかと思います。大鳥は事実を冷静に見極め、世に役立つものを提供する能力がある方ですが。一方で、南柯紀行や各漫談のタメやオチにあふれるユーモアから見ても、漫才師としての才能もあった方ではないかと思います。

大鳥圭介と鳳啓助。この二人が同じ世に生きていれば、笑いの絶えない善い付き合いができたことでしょう。

今後、「おおとりけいすけ」という名を耳にして「なんやポテチンか!」と返す方がおられましたら、「その漫才師が尊敬して名前をあやかったという偉人の大鳥圭介のことや!」と、ぜひ説明して差し上げて下さい。

タグ:大鳥圭介
posted by 入潮 at 06:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 幕末明治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あけましておめでとうございます

こちらの記事に、感激のあまりコメントさせていただきます
もう何年前になるか…
その時にはもう鳳さんは亡くなっておられまして
唄子さんが何かのトーク番組で
「啓ちゃんは、大鳥圭介という人が大好きで、その名にあやかって芸名をつけたんですよ」
と仰ってたのを鮮明に記憶しております
なぜかというと、その時すでに『燃えよ剣』で土方歳三に心酔しておりまして
「大鳥さんが好きだなんて変わった人だな」と…
ごめんなさい本当に無知で(汗)
年月が過ぎ去り、ネットなどで検索してもそういった確認は取れず、
もしかして記憶違いだったのだろうかとさえ、近年では思い始めそうになっておりましたところ、
ご本人さまがお話されてらっしゃった記事をみつけだしてくださったことに感謝しております
>「その漫才師が尊敬して名前をあやかったという偉人の大鳥圭介のことや!」
この言葉、歴史に疎い知り合いに一度言ったことがあります(笑)
これからも、自信を持って言い募っていってやろうと新年早々心に誓いました ^^

それから大鳥男爵瀧の家の記事の心温まることといったら…
草むしりし、駅前をうろつく大鳥男ぢいさんに、
「これがあの…」誰しもが心の中で呟いたであろう大鳥圭介という人に
私も遭遇したような気分になりました
楽しんでますよね驚く記者さんを(笑)


長々とおじゃまいたしました!

本年も入潮さまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます
Posted by 美春 at 2013年01月03日 13:32
明けましておめでとうございます。コメントありがとうございます。
昨年も美春様の南柯紀行現代語訳には楽しませていただきました。

京唄子さんがテレビ番組ででも仰ってということは、昔はそこそこ知れ渡っていた事実だったのかもしれませんね。
独特のユーモアに溢れた大鳥圭介を見出しその価値観に共感したのも、漫才師としての才能だったのかもしれません。
ファンタジー漫画の原典神話が作品ファンの間で有名になるように、漫才師の原点も有名になる…ということはまずない事とは思いますが。知る人ぞ知るという形で、知られればいいと思います。

一見偉い人には見えないというのも、大鳥圭介の深い人間性の一つですね。
「さまでの人とも思わざりしが」が大鳥の第一印象だった山川大蔵も、山王峠で、「貴方が高名な大鳥殿!」と感激しながら傍らの本多さん辺りに間違って挨拶して、周りの伝習隊士が噴出していたかもしれません。

現代の我々が燃えよ剣にだまされたのと同様。
当時の方々も、大鳥さんの外見から「これが…あの大鳥、圭介?」とだまされるのは、ある種の通過儀礼だったのではないかと思います(笑)。

今年も美春様のご活躍を楽しみにしております。
Posted by 入潮 at 2013年01月11日 00:23
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/308703226
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。